いんちきでさらにマクガフィン

by 丸太花道@乳軟部

虚々實々の熱海篇

 スーパービュー踊り子8號は天井が高く窓が広い。
 それに車内販賣のI川さんが愛らしく、満足を覚えながら下車。
 驛に併設された建物が随分と新しくなつてゐる。
 鄙びが減つたと思ひながらアーケードに入ると干物や温泉饅頭のお店が並んでゐて安心する。
 海側に抜けた辺りのK月堂も健在。今でもプリントが出來るのだらうか。

 19日の泊りは食事があるから、ちよつとしたつまみを仕入れ、宿にむかふ。
 熱海はごく狭い町で山肌にへばりつくやうに建物が並ぶ。急な坂道をぜいぜい云ひながら歩く。
 辿り着いて荷物をはふり出し、兎にも角にもひと息。
 素早く浴衣に着かへてお風呂。坂で滲んだ汗が洗はれる心地好さといつたら。
 ヱビスを平らげて本格的にほつとしてから、夕食。
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 頴娃君は抜かりがないから食卓にお酒を持ち込んでよいと確認済み。
 それで黎明。
 昨晩の志太泉には些か気の毒ながら、こちらの方がぐつと旨い。

 鯛をカルパッチョ風に仕立てた小鉢に鯵の南蛮漬。
 烏賊のお刺身を梅肉と大葉で和へたのには感心。
 白子のもみぢおろし添へ。
 菜の花の天麩羅。
 白身魚を鰹の出汁で仕立てたあんで。
 お吸ひ物は上塩梅でお替りを頼む。
 オレンジとキウイを添へたムースがデザート。

 鉢にたつぷりのお漬物は我儘を云つて部屋に持ち込む。
 前日に續いて用意したチーズと共に英君を開ける。黎明に劣らずうまい。
 備へつけのテレビジョンに器械を繋いで撮影した画像をスライドショウのやうに観る。面白い。
 プリントもいいが、かうして一ぺんに見直すのだつて、いい肴になる。
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 3月20日は寝覚めが些か惡い。左足の踵も痛い。
 気にせず朝めし。
 煎り卵、蒲鉾、筑前煮きに干物。
 御飯と焼き海苔とお味噌汁。
 デザートのプリンに珈琲を2杯。

 熱海の町中を歩く。寂れてゐるけれど、一部には新しいお店も出來てゐる。
 但しアタミ銀座のピンクショーは今回も實演されてゐない。残念。
 港では鴎が賑やかに騒ぎ、少年がカモメさん!と叫んでゐる。
 家族連れは微笑ましく、アベックは憎たらしい。
 熱海は温泉の町なのに、さうではないお風呂屋さんがある。原泉掛け流しなのか知ら。

 折角だから晝めしを喰はうと意見が一致して、何軒か覗いたが、この点だけは感心しない。
 尤も惡くなささうな居酒屋だのの看板はあるから、時間帯がよくないと見ることも出來る。
 やむ事を得ないとこれも意見の一致をみて、小田原に戻る。車内で罐麦酒(黒ラベル)を1本。
 驛ビル内の蕎麦屋で玉子焼きに箱根山、それからざる蕎麦を1枚をやつつける。
 満足して新宿経由での帰宅。踵の痛みは消えてゐたが、脹脛に疲れを感じる。

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# by vaxpops | 2017-03-22 07:00 | ニューナンブ | Trackback | Comments(4)

虚々實々の下田篇

 3月19日、起床午前5時。ラヂオを聴きながら出かける用意。
 午前6時51分新宿發の急行列車に乗る。
 途中うつらうつらしながら、小田原到着。予定通り8時25分。素早く煙草を1本吹かす。
 コンコースで頴娃君と合流。お弁当と麦酒を買ひ込んでJRのホームに下りる。

 午前8時58分、踊り子103號に乗車。車内は随分と混雑。
 窓外の好天を喜びあつてゐるうちに、特急列車は恙無く發車。早速麦酒で乾盃する。
 朝のスーパードライは惡くない。
 ヱビスの華みやびに移つた辺りでかねての予定通り、幕の内(大船軒)を開ける。
 おかずは吉乃川の肴。すつくり平らげた辺りで、伊豆急下田に到着。
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 風車のお祭があると事前に判つてゐたから、我われの足はそちらに向かふ。
 途中、道の驛開國下田をとほると、既に沢山のお客がゐた。
 そこから湾の周遊船の乗り場を経た先に、風車で彩られた即席の公園。
 一角に長い綱の結ばれた山車があつて、どうやら子供たちにも曳かせるらしい。
 その子供たちが少なからずゐるのは密かに驚かされた。

 法被を纏つた小父さん、いなせな姐さんに混じつた少年。
 眺めてゐると、山車に据ゑられた太鼓を美事な撥捌きで叩きだした。
 子供たちは夢中で綱を曳く。
 太鼓と三味線と笛が響く。
 すつかりいい気分になつて頴娃君の方を見ると、かれもまた大きく笑つてゐる。
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 ペリー・ロードといふ名づけは感心しないけれど、川沿ひの建物は藏を改装してゐるのか眺めが宜しい。
 端つこに個人宅があつて、2階のベランダから柴犬が、参賀を受ける皇族のやうに我われを見下ろしてゐる。
 麦酒も商ふカフェで心が動かされたが我慢に成功。そのまま道なりに驛前へと戻る。
 ホテルは素泊りの予約。マーケットで晩めしと翌日の朝めしを買ひ込む。
 お鮨、お刺身、チーズ。ヱビスのジョエル・ロブション(青)を1パック(350ml)と志太泉おりがらみ(4合壜)
 バスの時間が中途半端になつたのでタクシーを奢る。風車の町は明日までさらば。
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 チェックイン直後にジョエル・ロブションを2本空ける。つまみは罐詰めのベーコン。
 大浴場で波を眺めてから部屋に戻つて、例の酒盛り。
 志太泉は中々好もしい味はひに思はれたが、頴娃君いはく、ややひねてゐるらしい。
 チーズを肴に綺麗に呑み干して就寝は午前0時前。

 3月19日は午前6時前に頴娃君の大聲で目を覚ます。
 見ると窓の外、水平線に日の出。すりやあ、やむ事を得ない。
 前夜に追加してゐた一番搾りと助六で朝めし。健啖家の頴娃君は焼鳥丼。
 驛までの送迎バスを使つて下田の市街地に戻る。
 驛前の朝市を冷やかしてから再び風車のお祭の場所。昨日気になつてゐた三島コロッケ。美味。

 南伊豆製氷所といふ古い建物があつたのに解体されてゐる。
 地元の人たちが跡地に小さなお店を何軒か出してゐるのが幸ひ。
 たなかみどりさんのライブを聴きながら、敬意を表してお鮨(5貫)と麦酒を一ぱい。
 ペリー・ロードを経由してY本酒店とT藤酒店でお酒を買ひ込む。
 伊豆急下田からスーパービュー踊り子8號に乗つて熱海まで。

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# by vaxpops | 2017-03-21 12:00 | ニューナンブ | Trackback | Comments(2)

實々小田原篇

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、家に帰るまで、スーパーどんたくは終らないんである。
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# by vaxpops | 2017-03-20 14:37 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)
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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、一緒にビアは如何ですか。
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# by vaxpops | 2017-03-20 12:46 | 企画万巻 | Trackback | Comments(2)

實々熱海行⑧規則

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、熱海の港では飛び込みが許されてゐないから、注意しなくてはならない。
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# by vaxpops | 2017-03-20 11:14 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々熱海行⑦海辺

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、天気は晴朗、波は穏やか。
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# by vaxpops | 2017-03-20 10:55 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々熱海行⑥満腹

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、朝ごはんは大切にいたしませう。
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# by vaxpops | 2017-03-20 08:37 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々熱海行⑤曉の

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、曉に英君は輝くのである。
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# by vaxpops | 2017-03-19 22:32 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々熱海行④デザート

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、かういふデザートが出される某所は侮りがたいとお思ひになりませんか。
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# by vaxpops | 2017-03-19 19:41 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々熱海行③安い!

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、熱海での出世を目論むなら、プリンを買ふべし。
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# by vaxpops | 2017-03-19 17:36 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)
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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、お代りだつて、あるのです。
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# by vaxpops | 2017-03-19 14:55 | 企画万巻 | Trackback | Comments(2)

實々熱海行①これから

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、スーパービュー踊り子號は恙無く發車したのであつた。
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# by vaxpops | 2017-03-19 14:14 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行2日目、お鮨

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、お晝は握りに麦酒といふ贅沢をしてゐる。
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# by vaxpops | 2017-03-19 13:35 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行2日目、150円

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、三島コロッケは中々うまいおやつです。
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# by vaxpops | 2017-03-19 11:27 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行2日目、驛長

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、伊豆急下田驛の驛長をご紹介申し上げる。
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# by vaxpops | 2017-03-19 10:21 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)
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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、朝のごはんは助六一番搾りなのである。
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# by vaxpops | 2017-03-19 08:09 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行2日目、朝

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、2日目のお早う御坐います
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# by vaxpops | 2017-03-19 06:20 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行⑨落ち着いた

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、週末の落ち着いた気分にはヱビスですよ、矢張り。
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# by vaxpops | 2017-03-18 16:17 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行⑧朗報

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、見逃してはならぬ。
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# by vaxpops | 2017-03-18 14:44 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行⑦風車

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、弥七ではないので、念の為。
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# by vaxpops | 2017-03-18 12:36 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行⑥関所破り

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、伊豆急下田驛の驛員さんは、まことに親切であつた。
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# by vaxpops | 2017-03-18 10:50 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行⑤液体米

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、幕の内辮当のおかずは矢張り、いい肴になります。
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# by vaxpops | 2017-03-18 10:24 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)
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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、これくらゐ、呑みますよね。
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# by vaxpops | 2017-03-18 09:36 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行③朝ごはん

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、予告通りの"幕の内辮当"なんである。
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# by vaxpops | 2017-03-18 09:18 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行②乗つて直ぐ

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、いただきます。
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# by vaxpops | 2017-03-18 09:07 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

實々下田行①小田原から

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 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、お早う御坐います。
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# by vaxpops | 2017-03-18 08:51 | 企画万巻 | Trackback | Comments(0)

遠足の前の日

カメラにおやつ。
タオルと充電器。
お財布と切符と。
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ええと、それからわくわくの気分。

忘れちやならない替へのパンツ。

待つてゐろよ、明日、行くから。

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# by vaxpops | 2017-03-17 07:45 | 徒然諸々 | Trackback | Comments(2)

手羽胡麻

 元とか先とか、さういふ部位はさておいて(先の先なんていふのもあるさうですが)、手羽はうまいですな。焼いても揚げても間違ひがない。最近、黒胡椒をまぶしてある手羽を即席豚汁の味噌で炊いてみたのだが、思ひのほか惡いものではなかつた。手羽そのものより、濃い味噌汁を食べる感じにはなつたけれど。ただ手羽を炊くなら矢張り、甘辛く煮詰めるのが常道でありませう。一体に私は甘辛煮きといふのが好物なんです。ごはんのお供に宜しく、麦酒のつまみにもよく似合ふ。それで手羽の甘辛煮にはどうしたつて白胡麻が慾しくなる。この場合に限つては刻んだ青葱だとほんの少し不満が残る。肉のやはらかさに胡麻のはぜる感じが混ざるが好もしいのか知ら。
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 手羽は骨まで丹念にしやぶるのが望ましい態度なのを忘れてはならない。
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# by vaxpops | 2017-03-16 07:15 | 飲食百景 | Trackback | Comments(0)

 どうも我ながらにぶいなあと思つた話をする。寫眞の話。
 丸太の表藝が文章だといふのは以前から公言してゐるから、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にはご存知でせう。出來の評価はなさらなくてかまひませんよ。落ち込むのは明らかだから。
 併しこれもご承知のとほり、この[いんちきばさら]では使ひ廻しも含め、画像を多用してゐる。義務感があるわけではないが、習慣的…もしかして半ば機械的となつてゐる風には思ふ。自慢にはならないよね。とは云へ、画像抜きで[いんちきばさら]を書けないのかと訊かれたら、そんなことはないですよと応じられる程度に自信はある。更新が月二回くらゐに減りさうだけれど。

 それで先日ふと、おれはどうして画像を使ふんだらうと考へた。二本目の罐酎ハイを呑みながらだつたと記憶するが、それがドライだつたか檸檬だつたかは抜け落ちてゐる。

 最初に浮んだのは寫眞が好きだからといふ理由だつたのだが、説得力に欠ける。改めるまでもなく私の寫眞は他人さまに自慢出來る代物ではないからで、呑み喰ひの記録乃至報告は兎も角、寫眞それだけで成り立たせるだけの強靱さまでは持合せてゐない。謙遜でも卑下でも劣等感でもない、これは事實である。それにさういふ寫眞を見た時に感心はしても羨望は感じないから、まつたく向上心に欠けてゐるよ貴君と叱られるかも知れない。

 お叱りは甘受しつつ事實はさうなのさと呟きながら、もう少し考へると、居直りも含めて寫眞を出したいのだといふ、ある種の顕示慾があるのかと不安になつた。不安がをかしければ疑念でもいい。目立ちたくない、世間から身を潜めたい、隠棲したいとは思はないが、おれの寫眞を見ろと思はないのも本心だから、そこに顕示慾が入り込んでくるだらうか。偶々たれかの目に留まつて、その偶々のたれかが面白がつてくれれば、概ねは満足だよな、おれは。さう思ひ到つて、これも正しくはないだらうと結論づけた。

 我ながらにぶいのはここで、どうして表藝ではない寫眞の方向から考へたのか。前提といふか、出發点がそもそも誤つてゐたのです。
 私が寫眞乃至画像を撮るのは何故か。色々と事情はあるが、今の時点で最も大きいと思はれるのは記録乃至記憶。脳細胞が滅びつつある毎日、外部にその一部を委ねる為の手段が寫眞乃至画像なんである。常用の手帖と近いですね、扱ひが。

 さういふ扱ひをしてゐる寫眞だから、文章の中にあしらふ場合、それは主役にならない。書きたいこと(大したものでないのは我が親愛なる讀者諸嬢諸氏のご存知のとほり)を強調さしたり、明示(或は暗示)さす小道具である。だから仮になくても[いんちきばさら]は書ける。あれば便利。それがどうやら丸太の寫眞使ひらしい。もう少し簡潔な譬喩を試みれば、文章の補助線か。
 うん、我ながら惡くない譬へだと思ふ。文章を寫眞の説明にしない。と格別に意識をした、してゐるわけではないが、結果(の多く)がさうなのだから、"丸太の寫眞補助線説"には割りと説得力がありさうな気がする。併し多少なりとも冷静であれば、こんな分析の必要はないわけで、矢張り私は些かにぶいと云はざるを得ない。
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# by vaxpops | 2017-03-15 07:00 | 徒然諸々 | Trackback | Comments(0)

順序

 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏は馬鈴薯をお好みだらうか。ポテトと呼んでもじやが芋と呼んでもいいけれど。私は好もしく思つてゐる。眞面目に自炊をしてゐた頃、こまつた時は馬鈴薯を賽の目に切つて湯がき、冷ましてから、三個分の溶き卵と牛乳に混ぜ、焼いて喰つた。イスパニヤ風がこんな感じだと話に聞いて、眞似をしてみたのだ。皮向きと賽の目切りが面倒なくらゐで、焼いて仕舞へば、ケチャップでもウスター・ソースでもマヨネィーズでも醤油でも喰へる。尤も本もののスパニッシュ・オムレツは見たことがなかつた。いやもしかすると今もスパニッシュ・オムレツに縁はないかも知れないか。

 初めて馬鈴薯を食べたのは何でだつたらう。母親の作つたカレー・ライスか肉じやがだつたにちがひない。續くのはカルビーのポテト・チップスで、父親が一時期ひどく熱中してゐたから。晩酌のキリンビール(ラガーの中瓶)にあはせてゐた。残つた分は細かく砕いてふりかけのやうにごはんに乗せた。あれは倅ながら不思議な光景だつたなあ。程なく熱中の対象は大蒜の蜂蜜漬けに移つたから、眞似をするには到らなかつたけれど。その後がマクドナルドのフライド・ポテトだつた気がする。うら若い讀者諸嬢諸氏は知らないだらうが、四十年近く前の当時のマクドナルドは非常に豪華な食べものだつたのだよ。

 思ひ出すと私の家では馬鈴薯をさうさう使はなかつた気がされる。記憶にあるのは上に挙げたくらゐで、次に登場するのは二十歳前後、ステイク屋で喰つたつけあはせ…皮つきを丸ごと蒸かしたやつまで待たなくてはならなかつたもの。あんまり旨いとは思はなかつたな。馬鈴薯が惡かつたのか、料り方が雑だつたのか。両方だらう。安いステイク屋だつたしね、今さら文句は云はない。なのに偽のイスパニヤ・オムレツに挑んだのは、廉価で簡単さうに思へたからだ。その頃の私は生れて初めて、自分で食事の支度をしなくてはならなかつた。追ひ詰められたら馴染まない食べものでも使はうといふものさ。

 併し馴染まない食べものは食べないから馴染まないだけの話で、それもまつたく無縁ではなかつた。要は私が知る馬鈴薯の食べ方はごく狭い範囲だつただけのことで、ある知人に云はせると

「獨逸人は馬鈴薯を喰ふ。何故か。あの國では我が邦のやうに米(即ち一種の完全食品)を栽培出來ない。かれらは國土に適つた作物であるところの馬鈴薯を作り、食べざるを得ない」

のださうで、本当か知ら。知人はゲルマン人を揶揄ふことに無上の歓びを感じる人物だから、どこまで信じていいか、議論の余地はある。但し獨逸風の料理でザワークラウトと馬鈴薯を欠かされるのは、ごはんとお漬物のない日本の食事のやうではありますまいか。

 詰り馬鈴薯は獨逸人を歓ばせるくらゐ旨いと見立てることも可能で、旨く喰ふ為の工夫だつて怠らなかつた筈で、さういふ努力は英國人も米國人も怠らないだらう。ひとが住み着いた地域には必ず旨いものがある。さうでなくては生きてゆけないからと喝破したのは檀一雄で、あの流浪家兼小説家は言葉が正しく示す雑食家だつたから、その言は信頼に値する。だとすれば馬鈴薯がそして馬鈴薯の料理が我われの舌を歓ばせして、何の不思議もないでせう。揚げて焼いて蒸かして煮て、食事につまみにおやつに、塩からく醤油の香りで時にほの甘く。栄養分が仮にお米には劣るとして、大した問題ではなささうに思はれてくる。
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 さういふことを考へながら、画像の馬鈴薯料理("新じやが芋のチーズ焼"だつたと記憶する)を喰つた…ならば恰好がつくのだが、後から見て思ひついたのが實際である。世の中はうまくゆかないものだなあ。

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# by vaxpops | 2017-03-14 07:30 | 飲食百景 | Trackback | Comments(0)