いんちきでさらにマクガフィン

by 丸太花道@乳軟部

安心と信頼の

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 〆鯖は私を裏切らない。
 詰り、うまいのである。

 鯖が生き腐れと揶揄されるくらい足のはやい魚だと、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏に改めて伝えるまでもない話だが、その鯖を我われのご先祖は偏愛していたらしい。
 本当か知らと疑うなら、鯖街道の名前を思い出すのが宜しい。日本海で揚がった鯖を塩だか何だかで〆て、京に送った路の俗称で、あすこは食べものに恵まれない土地…神経質なほどに繊細な料理はその反動であろう…だから、珍重されただろうな、きっと。

 大体の話、鯖はどう料ってもうまい。
 塩焼きも味噌煮も竜田揚げもうまいのは勿論として、鑵詰になって食卓を支えもするし、ごく新鮮だったらお刺身でも舌を歓ばせてくれる。

 どうやってもうまい鯖の家で食べる機会が少ないひと皿を撰ぶとしたら、〆鯖だと私は信じている。まったくうまい。お刺身が躊躇われるお店でも、〆鯖ならそうそう外れる心配はない。保存食由來の食べものは味わいが安定するのだろうか。

 山葵はたっぷり。〆鯖に限っては醤油に溶く方が、香りを満喫するのに具合が宜しい。ひと切れつまめば脂と酢と山葵と醤油が一体となって口の中に広がり、含んだお酒でそれを流せばこんな満足はまたとない。

 〆鯖は私を裏切らないんである。
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by vaxpops | 2016-11-13 07:45 | 飲食百景 | Trackback | Comments(2)

胸やけ

 四十年ちかく前の冬、たくさんの牡蠣が送られたことがあつた。勿論私にではない。母の知人が送つてくだすつたのである。牡蠣を食べるのはその時が初めてだつた。両親がえらく昂奮して、少年の私もそれに釣られて…煽られて昂奮したのを覚えてゐる。その日の夕食は牡蠣の鍋とフライ。旨いうまいと云ひながら綺麗に平らげたのだが、その後ひどく胸やけした。馴れない贅沢で胃の腑が驚いたのだらう。

 牡蠣との出会ひはさういふ次第だつたから、あの奇妙な海産物は旨いと知つてゐるけれど、何となく苦手な感じがされ、その何となくは今も少し残つてゐる。
 併しその何となくを踏まへても牡蠣はうまい。思ひ出すのは、檀一雄がどうやつて食べてもあんなに旨いものはないと、牡蠣を熱狂的に礼讚したことで、あすこまで云はれるとこつちもその気になつて仕舞ふ。
 佛蘭西人は生牡蠣にあはせて白葡萄酒を呑むさうで、一ぺん眞似してみたが、そこまで感心しなかつたのは組合せの所為だらう。あれをまづいと断定するひともゐるけれど、本來は佛國の葡萄酒と牡蠣…詰り佛國でやつつけるのが正しい筈で、私はそれを試したことがないから、批評は控へなくてはならない。
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 通人に云はせると、牡蠣は獲れたての殻をこぢあけて海水で洗ひ、檸檬をひと搾りして啜るのが一ばんうまいらしい。きつと旨いだらうなと思ふが、さてさういふ食べ方に似合ふ牡蠣に出会へる機会はどれくらゐあるか知ら。

 さう考へると、フライは中々に侮れない牡蠣の食べ方ではあるまいか。以前にも似た話を書いてゐるなと思はれるが、気にせず續けませう。

 生牡蠣ならひと搾りの檸檬で十分にうまからうが、牡蠣フライになると矢張りソースが欠かせなくなる。基本はタルタル・ソースだらうね。ピックルスとうで玉子がたつぷり入つてゐれば、それだけでおかずになりさうなやつ。
 ウスター・ソースでも旨い。チリー・ソースを目立たない程度に混ぜ込むのがこつで、味の奥行きがぐつと深くなる。ケチャップ派もゐるさうだが、これは未だ試したことがない。煮詰めて葡萄酒や胡椒で調へたら面白いだらうな。用意するのが面倒さうだけれど。

 さういへば牡蠣フライに醤油を組合せた記憶もない。塩を振るのもやつたことがない。牡蠣フライに添へるのは粘度の高いソースといふ思ひこみがあるのだらうか。併し醤油をたらしこんだマヨネィーズや檸檬塩なら、牡蠣フライには似合ふだらうと思はれて、何故私は試してゐないのか。
 思ふに数が少ないのだな。牡蠣フライは定食でなく(私の場合はだが)、酒席でつまむもので、だから一ぺんに口にするのは精々二つぶかそこいらである。そんならタルタルまたはウスター・ソースを使ひたくなるのは、安定感の欲求かはたまた冒険心の欠如か。五つぶあれば安定と冒険の両方を樂しめるんだがなあと考れるのだが、それだけ並べられると、四十年前の胸やけを思ひ出すにちがひない。
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by vaxpops | 2016-10-19 07:15 | 徒然諸々 | Trackback | Comments(2)

刺して焼く

串刺しと云へばツェペシュ公と連想を働かすひとは少数派の筈で、無論私もそちらに属する。

串焼と云へば焼き鳥と連想を働かすひとは多数派にちがひなくて、無論私もそちらに属する。

ベーコンを串刺しにして串焼きにする發想は多数派なのか少数派なのか、私には判りかねる。

併しそれがどうあれ串に刺され焼かれたベーコンは旨いもので、かういふつまみは有り難い。
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ところでこの場合、失礼と頭を下げるべき相手はツェペシュ公なのか焼き鳥屋の親仁なのか。

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by vaxpops | 2016-10-11 07:30 | 飲食百景 | Trackback | Comments(2)

工夫の余地

 焼き海苔。
 クリーム・チーズ。
 刻み葱に胡椒。

 奇妙と云へばその通り。
 併しこれがうまかつたのだから、世の中は無断出來ない。
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 葱はなくても成り立つだらう。

 味附け海苔でもいけるだらう。

 胡椒の代りに辣油も旨からう。

 醤油つ気を加へても宜しいか。

 幾らでも工夫の余地が浮んできて、組合せや調味料の撰び方次第では麦酒にもお酒にも葡萄酒にも適ふのではと思ふ。
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by vaxpops | 2016-09-26 07:00 | 飲食百景 | Trackback | Comments(2)

さらば田町

 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏の一部に有名と思はれる田町の例の居酒屋が閉店した。
 我われは随分と世話になつたから、閉店の日に足を運ばない撰択肢があらう筈もなく、それで行つたらえらく混雑してゐたから驚いた。愛されたお店なのだな。儲けにはならなかつたとしても。
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 酒藏が営む居酒屋の嬉しさはうまいのを廉に呑めることで、呑まない撰択肢は有り得ない。
 からから笑ひながら呑んでゐたら、店長が一升瓶を抱へて幾つかの席を回り、我われのところにもやつてきて
「いつも來てくだすつた方に」
と云ひながら、桝酒を一ぱい、奢つてくれた。實に嬉しく、うまい一ぱいであつた。
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by vaxpops | 2016-09-25 06:45 | 飲食百景 | Trackback(1) | Comments(2)

思つたよりもそのままの

 焼き魚はうまい。

 鮭。
 鯖。
 鰤。
 鰯。
 鯵。
 鰰。
 太刀魚。
 秋刀魚。
 鯛。

 どれもこれも私の頬をほころばせるには十分すぎるほどうまい。お刺身やたたきや酢〆や煮つけも成る程うまいとして、この場は焼き魚の顔を立ててもらへれば有り難い。
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 それだから余り目にしない焼きものがお品書きにあると註文せざるを得なくなる。画像もそのひとつで確かかんぱちの串焼きだつたか。ほほうどんな風に出してくるのだらうと思つたら、こつちが考へてゐたよりそのまんまの串だつた。味つけはややあまめ。七味唐辛子を少し計り振りかけると冷や酒によく似合つた。
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by vaxpops | 2016-09-21 07:00 | 飲食百景 | Trackback | Comments(0)

1998 なんてことだ!

 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏には、[いんちきばさら]で屡々登場する"田町の居酒屋"にうつすら覚えのある方もをられるだらう。廉価で抜群とはいへないとしても、その値段を考へたら上々とは云つてもかまはないと思はれるお店である。
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 たいていの場合、魚を主につまむのだが、腹が減つてゐる晩には肉の登場を願ふこともあつて、これも惡くない。麦酒に獸肉の組合せは獨逸的だなあと感じるが、あちらはソーセイジやハムの類だから同列にするのは誤りかも知れない。
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 過日もその田町で頴娃君と呑み…いづれ明らかになる惡企みの幾つかも方向性が見えてきたのだが、それは別の機会に…、さあ酒席もお開きとなつたところで顔見知りになつた店長がちよつと、と話し掛けてきて、なんだらうと思ふと
『實は今月の23日で閉店が決りまして』
いやこのお店は確かにチェーン店である。23年区内に何店舗かあるのは知つてゐるし、その中の幾つかには足を運んだこともある。だから別段の不都合は感じない。

 筈はないわけで、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にはお判り頂けるでせう。チェーン店でも気に入りとさうでないところはあるもので、それは具合のよい立地や客あしらひ、或は店員の動きといつた色々が混ざつて出來る。だからそれで直ぐ新宿や御徒町や神田や池袋に乗りかへられず、乗りかへたとしてそこが馴染むまでには随分と時間が掛かる。何しろ田町には何年も通ひ續けてゐるから、同じくらゐかもつと必要だらう。詰り有り体に云へば経営者は(そちらにも事情があるのだらうが)我われにとつて些か迷惑な判断を下したことになる。暫定的に次の候補は新宿となつたが、まつたくの話、何といふことだらう。

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by vaxpops | 2016-09-05 07:00 | 飲食百景 | Trackback | Comments(4)

1985 "文化"

 鯖はどうやつてもうまい。生き腐れと呼ばれるくらゐに足がはやいのは困りものだけれど、ごく新鮮だつたら刺身も宜しい。酢で〆るのが嬉しいのは勿論として、煮ても焼いても揚げてもうまいし、罐詰を廉価な献立には欠かすわけにはゆかないといふものだ。味と値段と使ひ勝手のよさで魚のランクをつけるとしたら、鯖は鮭と双璧を成すにちがひない。
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 ごはんのお供で鯖を食べるなら、味噌煮を最良に挙げるとして、肴にするなら焼鯖がいい。塩焼で十分にうまいが、ちよいと気のきいた呑み屋だと、"文化干し"といふのを用意してゐて、これの註文を躊躇する理由を見つけるのは、酒席の難問に属するのではなからうか。さういへば何年か前に熱海の定食屋で喰つた、干し鯖を焼いたのは實にうまかつた。脂の染みた身がたつぷり肥つて、はてあの時は何を呑んだか。

 併しその鯖はあくまでも鯖干しで、"文化"ではなかつた。熱海の鯖が非文化的とは考へられないから、何か別の理由があるのだらう。
 さういへば文化庖丁や文化住宅などいふのがあつて、あの文化も何がどんな風に文化なのかよく解らない。尤も若者文化とか漫画文化とか、後ろに"文化"がへばりついたのはもつと訳が解らず、それに較べたら我が文化干しは単純で無邪気なだけ、救ひがあると云へなくもなく、若者や漫画は煮ても焼いても喰へないけれど、鯖は煮ても焼いてもうまいことを思へば、どちらに軍配を上げるかは、もう決つてゐる。

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by vaxpops | 2016-08-23 07:00 | 飲食百景 | Trackback | Comments(6)

 ニューナンブ≒マスケティアズが一堂に会するのは半年に一ぺんくらゐの割合で、私はそれを勝手にクリルタイと呼んでゐる。意はモンゴルの遊牧帝國で、ハンを決める大集会。我われは平和的な不逞の輩なので、どこかまたはたれかを蹂躙するわけではないが、まあ酔つ払つて大騒ぎするところだけは、大陸を席巻した騎馬集団に似てゐなくもない。
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 我われが好み且つ重視するのがお酒なのは改めて云ふまでもない。但しその好みの方向は微妙或は大きく異なつてゐる。濃さ淡さ、色合ひに香りの高さ…ひとくちに纏めると悦ばしいと感じる味はひに差があつて、そのちがひを呑みながら論じるのは好もしい話題である。
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 その晩の肴は豚肉と青菜の玉子炒め。お刺身の盛合せ。かぶと焼。鯖の文化干し。それから画像のソーセージの盛合せに鶏ハム(中華風ドレッシング)で、この賑々しさはニューナンブのクリルタイに似つかはしい。かういふのを毟り摘みまたつつき、幾つかのくはだてと莫迦話を香辛料としつつ、我われ四人はざつと一升のお酒を平らげたのであつた。
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by vaxpops | 2016-08-21 07:00 | 飲食百景 | Trackback | Comments(2)

1942 しらすをば

 小魚といふか稚魚といふか、兎に角さう呼ばれる魚はうまい。漁業の資産の視点に立つと、浪費は好もしくないのは理解出來るけれど、小魚乃至稚魚の姿が見えない食卓や酒席ほど寂しい情景も考へられない。

 小魚界の代表格と云へば、多くのひとはしらすを挙げるだらうと思はれて、私も同意を示すのに吝かではない。ただ世間が持てはやす生のしらすとなると事情が少しちがつてくる。余程に新鮮なら知らず、我われの口に入り易いしらすだと、寧ろ釜揚げのがうまい。
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 併しややこしい話に拘泥すると、うまいしらすもまづくなる。だから"しらすの韮玉子とぢ"なんてメニュを見掛けたら、喜び勇んで註文し、存分に小魚を堪能するのが好ましくまた望ましい態度ではあるまいか。
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by vaxpops | 2016-07-11 07:00 | 飲食百景 | Trackback | Comments(2)