いんちきで、さらにマクガフィンだつた。

by 丸太花道@乳軟部

G11-延長戦056

 前回、ニコンの新型にかこつけてリトルニコンの事に触れたので、今度はその話をしたい。
 リトルニコンは通称―愛称で正式には Nikon EM と云ふのだが、どうもあのカメラにはさう云ふ

 『ちやんとした型番』

が似合はない。別に惡い話ではなく、ニコン史上これだけ有名な愛称は稀有なのではないか。あと思ひつくのは、コンパクトカメラのニコンミニ(AF600)くらゐか。堅牢無比にして重厚長大の(印象がつよい)ニコンだと、小さいと云ふ事実をそのまま宣伝に転用出来るらしい。

 尤も実際、リトルニコンは当時の現役機種の中で、確かに小柄な部類だつたし、今の目で見てもそれは変らない。常時、掌にある機械には、適切な小ささがあるのだと思はれるが、その点にここでは深入りしない。
 カメラの仕様を見ると、実に詰らない…は、ひどい云ひ方だな、さう、平々凡々たるもので、絞り優先の自動露光に60分の1秒の機械式シャッタが保険で用意された、文字通りに大衆機と呼ぶ他ないカメラと云つてよい。外観上、特に目立つたのは、くの字に折れ曲がる方式の巻上げレヴァで、これは親指を当てるのに適切だつたし、贅沢にも小刻みの巻上げが出来たのは、手にして驚かされた点であつた。

 然し私を喜ばせたのは、さう云つた

 『意外な部位に、意外なくらゐ、お金が掛かつてゐさうな(事実、ファインダの見えは特筆に値する)』

ボディではなく、今にして思へば、ニコンのえらいひとは何を考へてゐたのか、ちよつと想像が六づかしいシステムの方であつた。
 リトルニコンに採用されたのはFマウントだから、他のニッコールレンズが大体、使へる。にも関はらず、シリーズEと称する小規模のレンズ群を用意し、型番SB-Eのフラッシュに、型番MD-Eの専用ワインダまで揃へてゐたのだから、私が理解に苦しむのも無理はないでせう。それは大衆機に不釣合ひなほど美事に完結したゐて、その気になればニッコールを持たずに、ニコンで完成出来る小システムであつた。

 今にして思ふに大ニコンはEMと型番を付けたこのカメラを、ニコンの外に置きたかつたのだらう。現在では想像が六づかしいが、カメラにはその昔、厳然とした階級があつた。たとへばプロフェッショナルの使ふニコンと、家庭の父親が休日に持ち出すペンタックスのやうなちがひ。
 さう云ふ位置関係から俯瞰すると、リトルニコンは確かにニコンの中で異質な存在―愛称以上に実質の伴つたリトルだつたらう。かつてのニコマートほど、その異質具合がラジカルに顕れなかつただけだと見立てるのは、おそらく正しい。ただ(幸ひ??)当時のニコンはリトルニコンを出す際、ラジカルの方向が解らなかつたのではないだらうか。それできつと、大ニコンの生真面目な社員は、生真面目に考へたにちがひないのだ。

 『ぢやあ、別枠を作つて、切り分ければいいんぢやないか??』

 どこをどう見ても、大間違ひとしか云へないのだが、さう理解しなければ、リトルニコンのいつそ奇怪とも思へる豪華さの説明が付かない。有り体に云つてその判断は、商売として見ると大失敗だつた筈だ。担当者はもしかすると、左遷されたかも知れない。
 だがその一方でリトルニコンは、お金を掛けるところを間違へなければ、大衆機でも優れたカメラ…システムを作り得る事を実証してもゐると思ふ。かう云ふ実例を使はない法はないでせう。大ニコンには今こそ、リトルニコンEMが示した矢印を再び、形にしてもらひたい。さうすれば当時の担当者の名誉も回復される事だらう。
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by vaxpops | 2011-09-27 22:35 | 番外携帯 | Trackback | Comments(0)
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