いんちきで、さらにマクガフィンだつた。

by 丸太花道@乳軟部

1803 神社と云ふ場所

 神社と云ふ場所が好きなのです。
 今出來のより、いつから在るのか判らない、ふるい神社がいい。

 何故好きのか知ら。
 本当はそんな事を考へるのは野暮な態度だらうと思ふ。好ききらひの理窟ほど、世の中に詰らない話はないのだが、単に好きだけで済ませると、そもそも[いんちきばさら]が成り立たなくもなる。殆どのひとにはそれでも實害が出ないのは承知するとして、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏とごく稀な数だらうもの数奇には叱られさうな気がしなくもないから、少し、書きつけるとする。

 いきなり時間を遡らせると、我われは神さまに対して寛容または無頓着であつた。少なくともユダヤ・基督教的な厳正さをもつて接する事はなかつたし、それ以前にさう云ふ強靭で緻密な宗教を持たなかつた。これは日本に限つた事情ではなく、中國や朝鮮でも似てゐると指摘をされさうだが、あちらでは儒教がその代用を果してゐるから、同一と見做すには些か無理がある。文明がある程度に成熟すると、宗教はある程度の纏まりを見せるのが常態ではないかと思ふと、異様な光景ではないか知ら。

 そのくせ、我われのご先祖さまたちが神さまに素つ気なかつたかと云ふと、決してさうではなく、敬意を持つて大事に扱つてもきた。疑はれるなら、本地垂迹といふ奇妙な考へ方を思ひ出して頂きたい。これはざつと、日本古來の神さまは佛さまが"権ニ現ハレタ(権現さまの語源でもある)"姿なのだとする説で、神に対する佛の優位を示すものではあるのだが、神を排除する考へではない。不思議ですねえ。羅馬帝國で生まれた基督教は、ガリアやブリタニア、ケルト、ゲルマンと版図を広げつつ、その土地の神さまを踏み潰して(それは強力な一神教の持つ、ひとつの大きな特性なのだらうが)ゐて、また土地の神さまもそれを甘んじて受容れた…ローカルな妖精になるならましな方で、うつかりすると贋神、惡魔扱ひされた…気配があるのに。
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 上代の日本人はよく云へば大らか、或は融通無碍、身も蓋もなく云ふならいい加減な姿勢で、神さまに接してゐた。姿の見えぬ隣人として。そして姿の見えぬ隣人たちは、豊穣や多産や長命を約束するわけではなく、嫉妬深くて何かにつけて飢饉や旱魃、疫病と祟りを為す存在だつたから、接するには慎重さが欠かせなかつた。今に残る神事祭事の多くはおそらく、神さまに捧げものを差し出す事で、ご機嫌を取り、祟りを為させないようにするのが元々の目的で、一種の賄賂と見立てても誤りではないと思ふ。勿論これは私の独創ではなく、丸谷才一の受け賣り。

 その丸谷説を半歩進めると(やつと)神社に辿り着く。前段の流れから云ふとこれは、上代人から神さまへ、不動産を賄賂として贈つたと見る事が可能で、強引の謗りを受ける心配はない筈だ。その賄賂を贈るに際しては気を遣つたでせうね、かれら。

 日当りと風通しがよく。
 集落からは離れすぎない程度の距離で。
 十分な広さと隠れどころがあり。
 適度な木蔭もある。

 さう云ふ清潔な場所を撰ぶ必要があつたわけで、實に贅沢だと思ふでせう。私もさう思ふが、それで祟り…云ひ忘れるところだつたけれど、上代人にとつて祟りは空想や妄想でなく、實感と實態を伴つた現象だつた事を、我われは思はなくてはならない…が防げるのなら(命に関はりますからね)、それを調へる手間ひまはやむ事を得ないものだつたと云ふより、欠かすべからざるところだつたらう。その行為、または行為に伴ふ心理的な事情は中世に成り立つた本地垂迹説を経ても残り、今に到つても、云はば漠然とした神威への畏敬として残り續けてゐるのではないか。そんな原始的なと笑ふひともをられるかも知れないが、私じしんはさうなので、ふるい神社の境内…神域に入る度、清々しさとしか呼ぶのが六づかしい気分と、きつとこれは日本人的で原初的なだらうとしか位置附けが六づかしい畏れを感じるのが常なんである。野蛮人を自認する私だつて、(これでも)現代の人間だから、原初的な畏怖をそこまで強く感じるわけではない(それでも淡く曇つた日、風に舐められたりすると、ぞくりとする瞬間がある)のだが、清々しさ…いやもつとしつくりする、せいせいした気分と云ひ替へて、それはまつたくのところ、感じない事がない。

 考へてみたら神社は上代人が神さまに贈つた賄賂で、神さまが気分よく過せる場所なのだから、人にとつて不快な場所である道理はなく、その遥か遠い娘や倅(詰り我が親愛なる讀者諸嬢諸氏や私の事だ)が、矢張りせいせいした気分を味はへたとして、何の不思議があるだらう。私が八百万の神さまに血縁があると主張する積りでないのは、念を押すまでもないとして。

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by vaxpops | 2016-03-02 17:00 | 徒然諸々 | Trackback | Comments(2)
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Commented by jes22salud2 at 2016-03-19 20:12
はいはいはい、ハイ!
手ぇ上げます!
乙女も神社好きっす。
神社の参道大好きっす!

次此方へお帰りの際は石切さんオススメです。

山菜おこわ、美味いのよ。
Commented by vaxpops at 2016-03-21 08:19
乙女酒場さん。

 時間に磨かれた格の高い神社は、文字通り浄域で、賛同から歩を進めるにつれて、気分がせいせいします。

 次の帰阪には、石切さんの山菜おこわを予定する事とませうか。
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