いんちきで、さらにマクガフィンだつた。

by 丸太花道@乳軟部

1988 もつ煮讚歌

 呑み屋に格づけをするのは趣味の惡い態度なのは解つてゐるが、趣味の惡い愉しみも世の中にはあるもので、さういふ愉しみに
『もつ煮がうまいかどうか』
は有効な基準点となるのではなからうか。何となくそんな気がされる。

 普通にうまいよと云ふのは二重の意味で誤つた意見で、うまい肴は普通ではなく、普通にやつつける肴にうまくあつてもらひたい。それに屡々誤解されるのは、もつ煮がお店それぞれで意外なほどに味が異なるのを無視してはならない。

 臓物の類を料る時は下拵へに手間がかかるもので、いやかかるのは手間ではなく時間なのかも知れないが、この場合両者はほぼ同じと捉へてもかまふまい。裏を返せばそこに工夫やら気配りやらの入る余地がたつぷりあるのだから、味はひに相違が出ない方が寧ろ不思議である。

 醤油の味はひ。
 味噌の香り。
 塩のあつさり。

 葱に韮に生姜。
 蒟蒻、豆腐、大根に牛蒡。

 さういふ渾然一体がもつ煮の味になり、肴の悦びになる。そして我が親愛なる讀者諸嬢諸氏に忘れてもらつてこまるのは、あの出汁といふかソップといふか煮汁といふかのうまさであつて、塩梅よく出來たもつ煮を前にそれを残すのは勿体無い以上に礼を失する態度である。
d0207559_653063.jpg
おお我らがもつ煮。
獸の腹を裂きて出でたる臓物の。
大鍋に烹らるる愛しき姿。

おお我らがもつ煮。
真白の器に盛られ出でる数々の。
悦ばしき肉の欠片たちよ。

韮はをどり蒟蒻は震へ。
豆腐はその汁に彩らる。
葱よ碧白に香りを立て。
唐辛子は紅いろに舞ふ。

我が友よ焼酎を注げ。
我も焼酎を平らげん。

おお我らがもつ煮。
小鉢なる宇宙の整然はいつしか。
渾沌へ回帰を續けそして。

数々の臓物は我が腹中に。
ふたたび獸の姿を見せん。

[PR]
by vaxpops | 2016-08-26 07:00 | 飲食百景 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : https://zampablack.exblog.jp/tb/23434828
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
名前
URL
削除用パスワード