いんちきで、さらにマクガフィンだつた。

by 丸太花道@乳軟部

1999 ミューズの御前に

 初めに云ふと、私は詩がさつぱり解らない。
 和歌や發句のやうに型が定まつてゐたり、韻を踏んだものならまだ、その型であつたり韻の妙に酔へるのだが、所謂"現代文の散文詩"になると、ほぼお手上げになつて仕舞ふ。
 併しそれは、いや勿論その一面があるのは否定しないとして、果してすべてが私の責任に帰する性質なのか知ら。
 前言を翻す積りはないが、"現代文の散文詩"がまつたくすべてお手上げなのではない。ほんの少しではあつても、痺れるほど好きな詩もあつて、ここでは急いで大岡信の『地名論』を挙げておかうか。水道管から流れた水が曇り空の東京に到る(厭な云ひ方だが)イメージの豊かさは今も、私の水についての印象の何割かを占めてゐる。或はそこに谷川俊太郎の『ベートーベン』にある濃厚な諧謔と皮肉と微かな哀惜と憐憫を加へても、こちらの中で矛盾は生じない。

 詰り"現代文の散文詩"でも、詩に対して鈍感な私に、これは詩であると分析を飛び越えて理解させるものはある。ではほぼお手上げだと感じるのは何故だらう。と書いて思ひ出すのは、立花隆の書評だつたかと記憶するが、そこにあつた
 『翻訳された文章を讀む際、どうにもよく解らなかつたら、自分の讀解力の前に翻訳の出來の惡さを疑つてみるのがよい』
といふ主張乃至意見で、痛烈ですね、これは。立花くらゐの讀み巧者だから云へる考へ方かとも思へるが、判らないでもない。學術寄りの本だとひどく讀み辛い場合があつて、頭の中では推敲をする時がある。中身が面白くて文章が下手糞だとさうせざるを得ないもの。

 さて。同じ理窟が"現代文の散文詩"に通用するだらうか?

 骨組の部分で見れば、通用する。
 少くとも私には、さう思はれる。
 "現代文の散文詩"がどうにもよく解らないのが何故かと云へば、改行を妙にしただけの、詰りただ下手つぴいなだけの散文とのちがひが不明瞭だからで、それは言葉の撰び方やあしらひ方が駄目だからで、それらはその言葉が示す筈の印象の濁りや曖昧さと直かに繋がつてゐる。その言葉を用ゐるのは詩人の役目で、用ゐ方が駄目なら、讀む側に伝はらないのは当然ではあるまいか。どうもそんな気がされる。もしかすると詩人の側から
 『おれ(またはあたし)は十分に注意をはらつてゐる』
さう反論があるかも知れない。知れないが、こちらに伝はらなければそれは不十分だつたか、誤りだつたかの可能性が高い。詩が解らないと云つてすりやあ、をかしいと指摘されたら、既に挙げたふたつの詩をもつて反論としたい。解らないままに、必要な言葉が文字が必要な場所に必要な順に置かれ、それらが示してゐるだらう…詩は本質的に言葉や文脈に多層的な意味合ひを持つものだから…イメージが浮んでくるのだから、こちらの見立ての方が優位ではなからうか。

 云つておくが、大岡や谷川と比較されてもこまるといふのは通用しない。

 たれの本で讀んだかちよつと忘れたが、詩は魔法だと書かれてゐた。それは
『ちからを入れずしてあめつちを動かす』
魔法であると。
 それが正しいとすれば、また私にはそれが正しいと思はれて、詩の文言は咒即ち呪文であり、時に神々に、或は恋慕の相手に、敬愛する物や事に恭しく捧げ奉られる。であればその文言は何にもまして入念に撰ばれ磨かれなくてはならず、ひらがなもカタカナも漢字も数字も記号も、それらは誤りなく抜りなく、それ以外があり得ない場所に置かれなくてはならない。ミューズがそれを嘉したまふか否かはその次の話であるとしても、かう考へると詩人といふ生き物は確かに魔法使ひと呼ぶより他になささうである。
 そこで疑問。
 詩人(または詩を書いてゐると自認するひと)の中で、ミューズの前に跪ける数はどれくらゐか知ら。 それは疑ひなく魔法使ひへの関門…たつたひとつの、そして高く分厚く険しい…であらう。思ふにその関門をくぐつたものが、恋でも酒でも艶笑でも冗談でも祈りでも、歓びでも哀しみでも諦観でも、口語でも文語でも、定型でも散文でも、どの國の言葉でも、それらこそが詩の冠を誇らしくかむるのに相応しいし、蒙昧な私をも感心させ感動させるのではなからうか。詩が解らない人間として、そんなことを考へてみた。
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by vaxpops | 2016-09-06 07:15 | 徒然諸々 | Trackback | Comments(2)
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Commented by 輪音 at 2016-09-17 21:23 x
みどものようなヘボ詩人としましては、ミューズの御前にひざまづけようと出来まいと情熱を言葉に託して月に吼えるだけでござんす。
Commented by vaxpops at 2016-09-18 10:44
輪音さん。

 色々申してをりますが、要するに"わからない人間の劣等感"なのですよ、ええ。
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