いんちきで、さらにマクガフィンだつた。

by 丸太花道@乳軟部

理想的且つ最強の

 どうも最近定食を食べない。別にきらひなのではなくて、食慾の都合なのが主な理由になるだらうか。特に揚げものの定食だとごはんを抜いてもらつて、その分を壜麦酒すればいいかと思ふこともあつて、それならわざわざ定食を食べなくてもかまはない。併しごはんとおかずと汁ものと小鉢が揃ふ定食には何だか魅力があるのも事實で、詰りこちらの食慾問題を横に置けば定食はうまいといふことになる。
 『阿房列車』だつたと記憶するが昔の食堂車のでボイは"お定食"と云つてゐたらしい。俗な上品気取りが当時の気分を示してゐて、かういふところの耳聡さはすごいものだ。尤もその"お定食"はきつとソップから始まる一種のコース料理だつた気配もあるから、その辺は差引きする必要があるかも知れない。それに今の特別急行では食堂車がないのだから、さういふ点では俗な上品気取りの時代も莫迦には出來なささうな気もされる。

 例によつて話が逸れた。食堂車は限定的でも復活さしてもいいんではないかと思はれるが、差当つての話題は定食の方である。そちらの話を進めるとしませう。詰り"理想的または最強の定食は何だらう"といふことで、先に云へば結論は出てゐない。あれこれ論じてみるので、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏には呑みながら、或は晩の食卓の話題として大いに活用してもらへれば丸太に文句はない。

 ここでざつと"定食とは何ぞや"といふ範囲を決めておかう。それは
『茶碗または丼のごはんを中心とし、肉や魚などの主菜、煮物や佃煮などの副菜、味噌汁などの汁もの、漬物がひとつの纏まりとして提供される食べもの』
で、きつねうどんとかやくごはんやラーメンライス、スパゲッティにパンといつた組合せはゆゑにこの稿から省かれる。無念だと思はれるなら、ご自身で存分に論じて頂きたい。そろそろ本題が近づいてきた。
 定食は主菜で幾つかに大別が可能と思ふ。ひとつには肉か魚介かその他か。もうひとつは調理の方法でこちらは焼揚煮炒であらう。細かな例外はあるとしても、これらの組合せが定食の基本だと考へて差支へはないのではないか。では主菜に最も相応しいのはどれかとなるのだが、この場合の基準は實のところそんなに六づかしくはなくて、即ち"ごはんに適ふかどうか"で見れば問題は生じない。裏を返せばそれ自体はうまいとしても、ごはんには適はなければ、それは定食として格がひくいと云つてよい。

 この基準で考へると、一ばん最初に落ちるのは牡蠣フライ定食で海老フライ定食が續く。概してフライ類はごはんより麦酒に似合ふ傾向が強いのではないか。天麩羅定食も余り感心しない。あれなら寧ろ盛合せにしてもらつてお酒の一本も添へる方が愉しめる。但し鶏の唐揚げや竜田揚げ、チキン南蛮定食は中々ごはんに適ふ。微妙な位置づけと感じられるのはとんかつ定食か。醤油で食べるならよいとして、ソースになると些かくどく、そのくせマスタードが加はるとまた様相が変化してまことにややこしい。
 肉の定食なら併し焼き肉定食や豚の生姜焼き定食を忘れるわけにはゆかない。定食でやつつけるならこちらの方が好もしいのではないか知ら。たつぷりのたれをごはんにバウンドさせるのは、この手の定食の醍醐味であらう。同じ樂しみを満喫出來るのは餃子定食くらゐかと思ふが、残念ながら餃子は定食で登場すると本來の實力を発揮するのが困難になる。中華風の料理は基本的にそれ自体がそれぞれに主役を張れる性格を濃厚に持つてゐるから、脇に廻すとどこかいぢけた感じになつて仕舞ふ。

 あくまでも定食の中心はごはんであつて、その点を注視すると肉類や洋風または中華風の調理と最後の均衡が取り難い。矢張り魚介の系統の方が安定すると私は見たい。定食と和食は直線で結べるものではないが、定食を料理の系統樹に置くとすれば和食の流れに属するだらう。
 それで頭に最初に浮んだのは鯖だつた。定食に仕立てるとしたら塩焼きか味噌煮、少し落ちて竜田揚げか。この中なら味噌煮を撰びたいね。味噌汁と重なるのは些か難点に思はれるが、ここはひとつ目を瞑りたい。ならば鯵の塩焼きや開きはどうかとも思つて確かにうまい。うまいけれど、ごはん相手には淡泊が勝り気味で、塩鮭定食の方が好ましい。
 ただ鮭を定食で喰ふなら、ちやんちやん焼きのやうな味噌炒めが魅力的で、これは野菜炒め定食でも同じか知ら。キヤベツ、玉葱、もやしに人参に青梗菜なら塩胡椒と香りの醤油に軍配を上げたくなるが、茄子が参戦するとなると断然肉味噌炒め定食でなくてはならない。いづれにしても肉味噌がぎりぎりで肉野菜炒め定食はいけない。優雅さに欠けるではありませんか。さうだ、鯖鮭鯵の名前が出たのでつけ加へると、刺身定食を落とすのを忘れてゐた。生魚とごはんの組合せはにぎり鮨かばら寿司が最良と理解するべきで、熱いごはんにはどう考へても似合はないでせう。

 ここまで書くとそろそろ、"理想的または最強の定食の概要"が浮んできさうで、それはこんな感じになるだらう。

・ごはんの理想は炊きたてだが、定食では無理がある。なので少なくとも炊飯器の中でべたべたになつたのは勘弁してもらひたい。

・味噌汁は合せ。種は豆腐に葱くらゐ。
・漬物は沢庵白菜胡瓜の塩漬けで。
 ※これは主菜の味を邪魔せず、くちを洗ふのを重視した結果である。

・主菜は魚介系統の塩焼きや煮つけが好もしく思はれる。獸脂は控へる方向。
・副菜には主菜と異なる、併しはつきりした味はひのたとへば浅蜊の佃煮。
 ※但し主菜の味が濃い場合は寧ろ酢のものや白和へ、おひたしが嬉しいかも知れない。

 うーむ、どうも概念的で面白みに欠けるなあ。
 では一例として、かういふのはとうだらうか。

 主菜に据ゑるのは鯖の味噌煮(針生姜と梅干しを欠かさぬように)
 味噌汁のあしらひには油揚げと葱。
 副菜は菠薐草のおひたし(または胡麻和へ)
 そこに胡瓜の漬物を添へる。
 定食だとごはんは盛切りが基本だが、出來れば一ぱいはお代りさしてほしい。ひと口あましたので、お皿に残つた味噌を綺麗に平らげたいのがその理由…野菜炒め定食でもこの事情は同じい…である。最後にひと切れの胡瓜とお茶でくちをさつぱりさせれば、鯖の味噌煮定食としては十全な完結を見せるし、他の定食にも応用が利くのではと思はれるが、さて我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ。あなたの"理想的且つ最強の定食"は何だらう。
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by vaxpops | 2016-09-09 07:00 | 徒然諸々 | Trackback | Comments(4)
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Commented by 輪音 at 2016-09-18 07:15 x
二色定食(日替わり)。
【内容】
ご飯と小盛りの蕎麦又は饂飩(温かいのと冷たいのを撰べる)。
季節の浅漬け。
小鉢に本日の一品(仕入れと店主の気分次第で内容異なる)。
おみおつけは日によってワカメと豆腐だったり馬鈴薯と玉葱になったりいろいろ。
野菜炒めか野菜サラドまたはポテトサラド。
揚げ物一品。竜田揚げだったりミンチカツだったり鰺フライだったり。




Commented by vaxpops at 2016-09-18 10:52
輪音さん。

 お蕎麦や饂飩はお味噌汁とぶつかりさうな気もしますが、ざるならいけさうか知ら。それとも〆に出してもらふのがいいでせうか。
 併しかういふ定食屋が近くにあつたら、うつかり通つて仕舞ふのは、疑念の余地がありません。
Commented by 輪音 at 2016-09-24 10:58 x
永遠の少年定食。

【ご飯もの】
オムライスまたは炒飯或いは加薬ご飯
【汁物】
ポタージュまたはコンソメ或いはおみおつけ
【麺類】
ナポリタンまたはスパゲティミートソース或いは餡掛け焼きそば
【揚げ物】
クリームコロッケまたはミンチカツ或いは魚介類のフライ
【野菜類】
野菜サラドまたはポテトサラド或いはチャンプルー
【肉類】
ハンバーグまたは豚肉の生姜焼き或いは肉団子
【甘味】
古典的プディングまたはもちもち白玉潰し餡掛け或いは懐かしのアイスクリン


Commented by vaxpops at 2016-09-25 18:10
輪音さん。

 少年に興味はありませんが、この献立は中々魅力的。
 これが1,200円以内なら、註文に躊躇ひはありません。
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