いんちきで、さらにマクガフィンだつた。

by 丸太花道@乳軟部

文學の伝統に忠實な

『小惑星帯(アステロイド)遊侠伝』
横田順彌・徳間文庫

 任侠映画といふものがある。あつた。

 高倉健や鶴田浩二を思ひ出せばいい。
 義理堅くて腕が立つて無口で不器用な漢が、我慢にがまんを重ね、最後に強慾無道なやくざを叩き斬つて仁侠の筋を通す話で、『仁義なき戦い』から實録路線が台頭するまでは、やくざを描いた映画はおほむねかういふ仕立てだつた筈だ。
 マンネリズムと呼んでもよいが、ここは寧ろ様式美と見る方がしつくりくる。任侠映画に限つた話ではなく、古い日本映画のシリーズものは大体かうで一定の型で成り立つてゐたし、テレビジョンの時代劇も基本的にはこれを踏襲した作りだから、一種の伝統藝と呼べるだらうか。

 併し不思議なのは小説だと、かういふマンネリズム…様式美は殆どの場合赦されないことで、例外は古典的な冒険活劇くらゐだらうが、これは小説への差別ではないか。と横田が考へたかどうかは疑はしい。任侠映画が好きなSF小説家の藝のありつたけを絞つた短篇連作が、この『小惑星帯遊侠伝』なのだと単純に受け取る方が正しさうに思はれる。

 全篇の主人公を張るのは"寺島組の昇り龍"の異名を取る真継龍一郎。無頼の徒ではなく、筋目の正しい仁侠者である。かれが義理に縛られながらも、その道の筋を通すのがすべてだから、粗すぢは紹介はしない。強調したいのはその"昇り龍"をはじめ、兄弟分の"降り龍"梅原、寺島組のお美津姐さん、惡党の藤原や野村や剛田、"天王星の人斬りドス"巳之介、"黒水仙"のお京といつた登場人物が明らかにストック・キャラクタなのに實に魅力的なことで、横田はきつと舌なめずりしながら書いたにちがひない。

 更に科白まはしや言葉遣ひの巧妙さも挙げておく必要があるだらう。宇宙服に"きもの"、原子破壊砲に"はつぱ"とルビを振る感覚。トリトン正宗や火星酒("うんがざかり"のルビがある)といふ酒の銘柄。女が呼び掛ける際の"お前さん"にはちやんと"おまいさん"とある。そこに

 「昇降そろいの兄弟龍、たとえ生まれは違っても、死ぬときゃいっしょと決まってます」
 「あたしゃ、兄さんのむかしのことなんぞ、これっぽっちも興味がないやね。それより、飲もうよ。飲んで、あたしの友だちになっておくれよ」
 「兄貴、渡世の義理でござんす。許してやっておくんなさい」
 「寺島組の真継龍一郎、人呼んで昇り龍、福永彦次の弔い合戦とありゃ、こいつは、ちょっとばかり手荒いぜ」

 かういふ科白が次々と出てくるのだから、昂奮しない方がどうかしてゐる。横田が丹念に資料を讀み込み、映画を深々と観た…詰り任侠映画の伝統と様式を學んだ結晶が『小惑星帯遊侠伝』で、その視点から考へるとこの小説は文學の本筋(伝統に則り、且つ拡げる)に忠實であると見立てても誤りではないだらう。
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by vaxpops | 2016-09-23 07:00 | 本映聴観 | Trackback | Comments(2)
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Commented by 輪音 at 2016-09-24 06:48 x
ヨコジュンですか。
SF魂を持った一人ですね。
奇抜なアイディアとしっかりした構成がお手のもの、という印象があります。

Commented by vaxpops at 2016-09-25 18:05
輪音さん。

 横田はかんべむさしと並ぶ、ナンセンスS.F.の巧者だと思ひます。この手の小説を書けるひとつて、今はたれがゐるのか知ら。
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