いんちきで、さらにマクガフィンだつた。

by 丸太花道@乳軟部

裏献立

先づかつ丼。

次に親子丼。

續いて天丼。

 これをもつて丼ものの三強とする。
 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏から異論は出ないものと信じる。

 鰻丼?
 貫禄は認める。ただ残念ながら殿堂に入れられた現状、現役は厳しからう。

 牛丼?
 旨いし気がるなのもよいけれど、三強を脅かすにはまだまだである。

 海鮮丼?
 熱いめしに生魚の組合せをどう論じればいいのか、私には解らない。

 カレー丼?
 私としては大きに賞揚したいのだが、流石に三強入りへの推薦までは出來かねる。

 麻婆丼?
 無理やりな丼化は如何だらうかね。麻婆豆腐はお皿で食べるものである。

 他にも思ひ出せば、他人丼(別名開化丼)、木の葉丼、玉子丼…いやもう切りがなく、また我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にも独自の丼がありさうにも思はれるが、要するに我われは丼ものを殊のほか歓ぶ性向を持つてゐるらしい。

『丼と呼ばれる深い器にごはんを盛り、その上におかずとなる食べものを乗せたもの』

 丼ものを大まかに定義すればこんなところと思ふが、更に細かく云ふと

・お皿に盛つたものは丼ものと呼ばない。
・ごはんには混ぜものをしない。

点が重要であらう。従つてたとへばお皿に盛る天津飯は丼ものではない。ごはんに豆や栗や様々の山菜を混ぜると、それは炊き込みご飯だし、酢飯を用ゐたならそれはばら寿司で、丼ものとは呼べなくなる。…精々が、親類縁者くらゐか知ら。

 まあ、不精者のめしと云つていいね。
 ごはんをお茶椀によそひ、おかずをお皿に盛りつけ、いそいそちまちま食べるのが面倒な職人連中辺りが、この際だから纏めて仕舞へと考へたのではないだらうか。丼もの全般の原形は

『重箱に熱くしたおからを入れ、そこに鰻の蒲焼きを詰めたもの』

らしいが(蒲焼きを持ち帰る際の工夫である)、めし炊きが一日一ぺんだつた頃、冷やめしに菜つ葉を(序でに汁ものも)打掛け、掻つ込むくらゐの眞似はあつたらう。さういふ不精におからと蒲焼きの工夫が出会つて生れたのが、丼ものではなかつたらうか。

 かう推測すると、深い器とめしといふ條件は丼ものに不可欠なのだらうと思はれる。
 ただここで疑念が浮ぶのは、早鮨(今で云ふ握り鮨)や蕎麦切りがあるからで、これらも元々不精者のめしだつた筈なのに、今では随分と洗練された。一方で我らが丼ものは今もどこか野暮つたくて、安直なままである。

 このちがひは何だらう。

 ことに早鮨を考へるに、"ごはんとおかずを纏める"といふ骨組みは丼ものと同じで、おかずの種類が色々あるのも同じではないか。

 そこで早鮨が握り鮨になる過程を俯瞰すれば、先づ種の洗練があつた。初期の早鮨で用ゐられた赤身の漬けや白身の酢〆が、保存方法の進歩に伴つて、生魚を扱へるに到り、そこに庖丁の工夫の余地が出來た。
 もうひとつは鮨自体の小型化で、一種の具入りおにぎりだつた早鮨が、眺望も愉しめる食べものになつたのは、こちらの要素が大きい。この庭園を盆栽に仕立てるやうなやり方は、我われのご先祖が甚だしく好んだところ(印篭や根つけを思ひ出せは直ぐに判るでせう)で、現代にもその傾向は色濃く残つてゐる。

 さういふ縮小志向…盆栽化と最初から現在まで無縁なのが丼ものではないか。
 それで三強のかつ丼、親子丼、天丼を盆栽化出來るものかと想像してみた。念の為に撰外でも想像してみた。してみたが、いや無理だね。貧相以外の何ものでもなかつた。
 中々の發見であるよ、これは。
 丼ものがもうひとつ、野暮つたいままなのは、我われの意識の深いところに刷り込まれた縮小志向…大きく美意識と呼んでいいかも知れない…に反してゐるのが、その要因なのにちがひない。少なくとも無視は出來ない要素ではあらう。尤もまつたく駄目だと断定するのは淋しい。そこで"小振りな丼もの"に似たものを用意出來ないものかと考へてみた。

 ここで"殿堂入り"の鰻に登場願ふ。前述した"丼ものの原形"を援用するんである。
 詰り蒸すかどうかして温めたおからに、たれをたつぷりの蒲焼き。
 これなら前菜くらゐの量で出せさうな気がされる。これはなんですと訊かれたら、ちよつとした蘊蓄の披露にもなる。何より蒲焼きのたれが染みたおからは旨いに決つてゐる。丼ものの裏献立撰手権があれば、断然の優勝は疑ひない。
by vaxpops | 2017-06-03 15:30 | 徒然諸々 | Trackback | Comments(0)
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