いんちきで、さらにマクガフィンだつた。

by 丸太花道@乳軟部

前言撤回

 毎日毎晩食べたいわけぢやあないけれど、食べれば舌を悦ばせる一品の筆頭に、揚げ出し豆腐を挙げて、大きな反論は出ないにちがひない。
 深い器から湯気を立てる揚げ出し豆腐を見ると、何とはなしに幸せを感じるから、私もえらく単純である。但し池波正太郎に云はせると、一日の仕事を終へて食べる味噌汁に、幸せを感じるのが健全ださうだから、単純も惡い計りではない。

 出來たてが特にうまい。
 木匙で食べるのが旨い。

 揚げ出し豆腐はお箸を使ふと、途端に味はひが落ちる。大根おろし(或はもみぢおろし)、葱、それからたつぷりのつゆを一緒にしたのが、揚げ出し豆腐の味だからで、熱い皮と豆腐、冷たいおろし、油のしつつこさと葱のさつぱりとつゆのとろりが匙の上で纏り、口の中でぶつかるところが宜しいのだ。

 さうすると冷たい麦酒を求めたくなるところだが、それは感心しない撰択である。揚げ出し豆腐だと麦酒の苦みが却つて邪魔になるもので、この場合、香りの立たないお酒が好もしい。冷酒よりもぬるめのお燗が似合ふ。あの有名な唄には申し訳ないが、焙つた烏賊より適ふと思ふ。

 ぬるめにつけたお燗酒を一合誂へ、これをゆつくり含み、揚げ出し豆腐をひと匙。これを爺むさいと思ふのは若いものの浅はかさで、夜を愉しむのにこんな素敵な組合せはまたとない。同じ豆腐仲間で近しいのは何だらうと思ふと、温奴くらゐではあるまいか。ただ温奴は冷たいぽん酢に削り節、青葱、生姜(またはもみぢおろし)でやつつけるから、揚げ出し豆腐の適度な油つこさに欠ける難点がある。天かすを加へればいいのか知ら。

 併し手軽さは温奴に分を認めるとして、より旨いのは矢張り揚げ出し豆腐である。一体感が違ふものな、何しろ。気のきいた呑み屋だと、註文を受けてから作りにかかる。ちよいと待たなくてはならないが、そんならぬる燗を二合奢つて、お漬物や酒盗でも肴にして待ちませう。

d0207559_781388.jpg

 そんな眞似をしなくたつて、揚げ出し豆腐くらゐ、自分で作ればいいぢやあないの。

 さう、呆れ顔で云はれるかも知れないけれど、こちらはどうにも不器用だし、ことにたつぷり使つた油を後でどうするのかも判らない。揚げものは全体、玄人に任すのが安心だし、にカウンターの中のひとが、手早く仕立ててゆく様を見るのは、柳葉魚や畳鰯と並ぶいい肴ではないか。
 尤もかういふ愉しみには、待つ時間も含まれるもので、空腹に身を蝕まれ、鶏の唐揚げを貪りたくなるやうな若い胃袋では、我慢がならないやも知れない。ある程度は枯れて縮んだ胃袋が求められることを考へると、前言を撤回すべきではなからうかとも思はなくもない。
[PR]
by vaxpops | 2017-06-30 07:15 | 飲食百景 | Trackback | Comments(4)
トラックバックURL : https://zampablack.exblog.jp/tb/24669324
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by drop0516-edge at 2017-06-30 20:20
はい、大正解。
外でいただくものやとここ数年
ほんま思います(笑)
Commented by vaxpops at 2017-07-01 12:54
乙女食堂さん。

 "作つてもらへる"といふのは、一ばんの贅沢ですものねえ。
Commented by lagoonchii at 2017-07-04 00:27
ほんと外で食すものなのですねぇ。
加えて、たまにいく店に、揚げ出汁卵というのがあり、卵好きにとっては、もうたまらないのですが、家では絶対やらない料理だと思うわけであります。
Commented by vaxpops at 2017-07-06 07:01
lagoonchiiさん。

 揚げ出汁卵つて、どこからどう想像を巡らせても、うまい以外の結論に達しないメニュではありませんか。
 いいお店をご存知で妬ま…訂正、羨ましい限りです。
名前
URL
削除用パスワード