いんちきで、さらにマクガフィンだつた。

by 丸太花道@乳軟部

複雑な構造の驛

『新版 ローマ共和政』
フランソワ・イナール(訳・石川勝二) 白水社 文庫クセジュ

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 立花隆だつたかと思ふが、翻訳もので讀み辛いと感じたら、先づ訳し方を疑へと書いてあつた。序でに詰らないと感じたなら、投げ出して仕舞へとも書いてあつた。確かにさういふ…讀み辛くて詰らない本があるのは事實の一面なのだが、痛烈だなあ。

 但し讀み辛くても興味をそそられる本も中にはあつて、この本はその一冊に加へられる。
 共和政時代のローマは七代續いた王を追ひ出してから成り立ち、スッラを経て、カエサルとオクタウィウス(後のアウグストゥス)に潰されるまでの五百年くらゐを指す。ハンニバルの戰争もスパルタクスの叛乱も『ガリア戰記』もこの時代の話で、古代の地中海史に多少の興味があれば、實に面白い時代だと思へるだらう。そこにはギリシアだけでなく、エジプトだけでもなく、シリアやペルシア、イベリヤからフランスにも跨がる広範な地域が含まれてゐて、世界史上これほどダイナミックな時代は、現代に到るまで、ないのではないか知ら。

 さういふ五世紀を描かうと云ふのだから、詰らなくなる道理はない。ない筈なのだが、率直なところ、何度も本を投げ捨てさうになつた、と白状しておかう。何故かと云ふのは簡単で

 「けれども周知のように、すでに前の時代から、原初の徴兵‐原始的な三つのトリブス(おそらくは人種に起源を持ち、各トリブスは一〇のクリアに再分割されていた)に基づいた‐に取って代わられたのは、市民を組織的に掌握するのに都合がよいようにと思い描かれた財産調査用の階級分け(二四頁の表参照)に基づく、当時はやったやり方であった」

一讀して、すつと理解出來るでせうか。念の為にハイフンと括弧書きを除くと

「けれども周知のように、すでに前の時代から、原初の徴兵に取って代わられたのは、市民を組織的に掌握するのに都合がよいようにと思い描かれた財産調査用の階級分けに基づく、当時はやったやり方であった」

となるのだが、これだつて意味を取るのは六づかしい。訳者による後書きを見ると、原語には非常に長いひとつの文が多用されてゐて、かういふ文章を、"文脈を損なわずに日本語に直すのはなかなか骨の折れる仕事"だつたので、括弧書きやハイフンを用ゐて対応したさうだが、かういふ本に文學的な配慮は不要である。一文が日本の讀者にとつて長過ぎるなら、短い文に分割すればこの場合は好もしい対応なので、判断を誤つたのだなあと溜め息をつかざるを得ない。

 但し著者の目配りは大したものだと思ふ。扱ふ時間も地域も人種も制度も戰争も、余りに広くて変化に富んでゐるから、踏み込みは些か浅めに感じられたけれど。
 ことにマリウスに始まる軍事の変革からスッラの手による復古的な改革の流れは、その後のカエサルとアウグストゥスに到る(詰り共和政ローマの変質と崩壊に直結する)きはめて重要な期間…と私は考へてゐる…なのだが、その辺りも他の箇所と同様に淡泊な筆致だつたのは残念と云はざるを得ず-おや、訳者の惡癖が移つたか。
 尤も筆者にしたら、難癖をつけられた気分になるかも知れない。目的は五世紀に跨がる時代の俯瞰で、個々の事象を詳らかにすることではないのだよ。さう云はれたら、確かにその通りか。この時代には幾つかの、或は幾つもの分岐点と変化があつて、おほむねそれらは焙り出されてもゐる。そこで"if"を考へてみるもよし(たとへばスッラの大粛清に際してカエサルの助命が赦されなかつたら?)、ある点を突つ込んで更に調べてみるもまたよし。さういふ意味でこの本は、ローマ或は地中海史の様々な方面へ進み乗り換へられる巨大な驛と見立ててもよい。尤も肝腎の案内板がひどく讀み辛くて、随分の苦労は求められるけれども。
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by vaxpops | 2017-07-25 09:00 | 本映聴観 | Trackback | Comments(0)
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